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「…で?
なんで私までこんな所に来なきゃなんないわけ?」
日曜日──
某都内にあるホテルのカフェで、
すでに彼女とその男は向かい合って座っていた。
それを向かいの喫茶から遠巻きに眺めて様子を伺っている俺。
そして俺の隣で不機嫌そうにしている、美智江。
両手で頬杖をつき、唇を尖らせて何か言いたげな、ひょっとこ面で。
「いいだろ、…ここのケーキ美味しいみたいだし、
俺の奢りなんだから。
まだ足りないなら、もっと頼んでも良いしさ」
「………ふ、必死ね?」
「……」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる気持ち悪い彼女を一瞥し、
目元付近まで伸びた前髪を掻きあげながら、視線を外した。
必死…、そんなんじゃ…ない。
俺は…ただ、──
言い繕う言葉が見当たらないまま、
コーヒーを片手に微かに見える彼女へと視線を移した。
「……」
久しぶりの彼女は、見合いの為にか…
綺麗に着飾っていた。
アップにされた巻き髪、顔には以前とは違う濃いめの化粧をしている。
耳元に飾られた真珠のイヤリング。
シフォンの薄いピンク色のワンピース。
ウエストをしぼったXラインがメリハリボディを強調して艶めかしい。
柔らかそうな黒髪をふわりと春風に靡かせて楽しそうに…
目の前の奴に微笑んでいる。
「……」
見たことのない彼女の着飾った容姿と、
目の前の男性に頬を赤らめながら見つめる表情に、
内心…穏やかでなんかいられない。
この場に来てからまだ10分も経っていないにもかかわらず、
…コーヒー3杯目のお代わりを注文した。
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