すれ違う想いの先にあるもの…

35/41
前へ
/122ページ
次へ
何処か遠慮気味なノックオンが耳を掠め、 「喉乾いたんで、 何か飲み物欲しいんすけど──」 と棒読みの様な声がドアの向こう側から聞こえたことに、 ビクリ、と身体を震わせて伸ばしかけた腕をそのまま下ろした。 「……。」 「……っ、…はぁっ…」 唇が離されると同時に息を吐いて呼吸を整える。 キスだけで潤んだ熱の篭った瞳でそのまま見上げると 春樹の熱い視線と絡んだ。 「……」 「……っ、」 至、近距離。 闇に浮かぶ、妖艶な熱帯びた春樹の瞳が真っ直ぐに、私を見下ろしている。 静まり返る、閉ざされた部屋の中。 私と春樹の息遣いだけが響いていた。 いつものように意地悪な言葉の一つ位降ってくるかと思って ギュッと身構えていた私。 けれど、春樹は…何も言わなくて。 ただ私の前髪辺りにポンと手を置き、 額に軽くキスをして、フッと笑っただけだった。 「………」 …え? キョトンと見上げる私に、 「俺、 …ソファーで今日から寝るから」 「………」 まるで今までの強引さが嘘のように、…あっさりと、 部屋を出て行く春樹。 そんな遠ざかる背中をボンヤリと目で追いながら、 「……」 自分が…この瞬間、思った気持ちに、…驚き過ぎてピクリとも動けない私。 だって、 可笑しい。 …こんなの、自分じゃないみたいだ。 ドアの向こうに一之瀬君が居たとしても、 あのまま、 …… 強引に…春樹に抱かれたかっただなんて… そう感じてしまった自分自身に、 身体中が見る見るうちに赤らんでいったのだった。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加