私、みなみ君の匂い好き。言わないけど。

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みなみ君は苦笑しながらベッドに寝転がり、テレビを見始めた。 みなみ君の後頭部を少し見つめ、夕飯を作るためにまな板と包丁を手にとった。 みなみ君はお兄ちゃんだ。 本当のお兄ちゃんでもなければ義理のお兄ちゃんでもない。 ただ、隣人だった、ただそれだけ。 私にはお母さんがいない。お母さんは私が嫌いだった。 私はあまりお母さんのことを覚えていないけど、よく叩かれたり蹴られたりされていたことはほんのり覚えている。 お母さんは、私に他人への恐怖心と不信感だけを残していつの間にかいなくなっていた。 お父さんはそんな私を捨てずに、お父さんなりの愛情でこの歳まで育ててくれた。 …正直、お父さんのこともあまり信じていない。失礼な話だけれど。 みなみくんはお父さんがいない。こちらは単純明快、父親の不倫だ。 なんてことない、上司と部下の関係だった彼らはいつの間にか男女の仲になって、遊びをやめられないまま、 みなみ君のことなんてなかったみたいに消えていった。 そんな隣人の私たちは、独りでいることが多かった。 だから出会った時に理解したんだ。 同じ目をした子供だった私たち。この子は、自分と同じような傷を持っているのだと。 二人でいるときの不思議な安心感。安定感。彼なら、痛みを分け合えられる。
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