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「みなみ君、お風呂あがったよ…」
私が部屋に戻ると、みなみ君は電話をしていた。わかっている。相手は、みなみ君の彼女。
わかる。痛いほど理解できる。みなみ君が彼女のことを好きなこと。
私と話すときより甘い喋り方、トーンの高さ、優しい顔して、電話している。
「…ごめん、電話してた!お風呂入ってくるね。」
「彼女さんと関係は良好?楽しそうに会話してたね。」
私が冷やかすようにみなみ君に言うと、少し照れながら「まぁまぁだよ」と答えた。
バスタオル片手にみなみ君は、覗くなよ、と笑った。覗かないよ、と笑ってお風呂へ促した。
胸が張り裂けるどころの騒ぎではない。愛しいはずのあなたの声も、仕草も、表情も、今は私を苦しめる。
こんなに苦しいなら、想いを告げればよかったのだろう。でもそれは、禁忌だった。
私たちは、『兄』と『妹』の関係だからこそ、成立しているのだから。どちらかが好意を抱いて近づいてはダメなのだ。
私たちが何よりも恐れているのは別れで、確実な好意を抱いた恋心は、時に破壊的な意味を持つ。
出会って、愛して、離れて。別れることが前提の付き合いなんて、遣る瀬無い。
みなみ君と彼女は付き合って長い。うまくいけば、このまま結婚するだろう。私の焦燥感は止まることを知らない。
けれど、私には、入る隙間がないから、せめても『妹』として傍にずっと居たいんだ。
これは私の秘密。想いは可愛い箱の中にいれて、鍵をして、観賞用として胸に置いておくの。
悲しい?そんなことないよ。だって『お兄ちゃん』であるみなみ君の隣にいることができるから。
触れれば温かい、人の体温を教えてくれたのはあなたで、想えば苦しい、目まぐるしい感情を教えてくれたのもあなた。
あなたが私の全てなの。私はあなたで構成されている。
そうね、強いて言うなら、圧迫感のある苦痛に満ちて耐え切れない、どこに矛先を向ければいいのかわからない
この感情は、切なさ。
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