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「お風呂上がったよ」
みなみ君が上気した顔で部屋に戻ってきた。
「もうそろそろ夏だから、お風呂上がりは結構暑いでしょ?」
私は今までさもスマホをいじっていたように、ホーム画面のスマホを凝視しながらみなみ君に言った。
みなみ君はタオルでぐしゃぐしゃと髪を拭いて、私が寝転がっている横に座った。真っ黒な瞳、真っ黒な髪の毛、日焼けした肌。みなみ君だ。
「だからそんなにセクシーなパジャマ着てるの?涼しそうで良いけど、でもダメだよ。しずくももう大学生なんだから誘うような服は控えなよ。」
襲っちゃうよ、とみなみ君は笑った。ドライヤーで髪を乾かし始める。
誘っているんだよ。襲っちゃってよ。あなたの想いも体温も、私は手に入れたいんだよ。
手だけじゃ嫌なの、物足りないの。もっと、全身で、もっと、心から。温かいモノが欲しいの。
「歯磨きした?」
「いや、まだ」
私とみなみ君は洗面所へ向かう。みなみ君の体は火照っていて、少し赤みがかっている。私はもう湯冷めして、赤かった肌は白すぎる白へ戻っていた。
「なにこれ、ぶどう味?」
私が歯磨き粉をつけながら茶化した。
「美味しいんだよ、ぶどう味!しずくもわかるさ、この感動が!」
みなみ君はオーバーリアクションで返答してくれた。
歯磨きをしている間、私たちはお互いに「ん」だけで会話していた。
「ん」。指相撲しようよ。しずくの指は細くて折れそうだよ。みなみ君、そんなにゴツゴツした手だったっけ?
「ん」。やっぱりぶどう味甘くない?この甘さが絶妙じゃない?えー、みなみ君、歯磨き粉まで甘党なの?
「ん」。いつまで歯磨きする気なの?しずくが終わったら終わるよ。じゃあ、そろそろ終えるよ。
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