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ここはとある西洋風な建物の中庭。中庭から見える建物には、白い壁に等間隔で両開きの窓があり、建物と中庭の中心を繋ぐように四方にアーチ状の入り口。中庭の中央には井戸がポツンとある。
俺が居るのは、そんな小ぢんまりとした中庭の一角。
「ユウヤ!!」
壁に配置された共同で使う洗面台にて、俺は自分の名前が呼ばれた方を見やる。
そこには犬の頭に人間の胴体をくっ付けた様な…リアルな犬の着ぐるみに服を着せたみたいな奴が、俺に向かって駆け足気味に近付いて来る。
「よう、ジョン」
そんな犬人間こと俺の同僚であるジョンに、軽く片手を上げて軽いノリで返事を返す。
「今日、話してくれんだろ!?約束忘れんなよー!?」
いったん立ち止まり、その場で駆け足状態で俺の肩をポンと叩くと、そのまま駆け足で通りすぎようとするジョン。
「おー、仕事終わったらなー!!」
そんな背中に声を掛けてジョンを見送る。
俺がジョンと約束した話とは、俺がこの世界へ来た経緯(いきさつ)だ。
そう、本来、俺はこの世界の人間じゃない。ジョンも着ぐるみなんかじゃない。この世界では獣人と呼ばれる、ガチな犬人間だ。そして俺だけが何故か日本から来た普通の人間だった。
だったと言うのは、俺の容姿だ。
俺は顔を洗い終えた後、洗面台に設置された、なんの装飾もされていない簡素な四角い鏡を見つめる。
そこに映し出されたのは、くせっ毛なのか所々ピョンと跳ねた黒髪。前髪の一部が目に掛かる程度の長さだが目には掛かっていない。ツリ目がちな黒い瞳で、全体的に勝ち気そうな印象を受ける15前後の少年。
…そして魔法が使える。
ちなみに俺の年齢は28だ。若返った訳じゃない。どうやら体自体、変わったらしい。
あと30にもなってないのに魔法が使えるなんて、他の先輩魔法使いに申し訳なく思ったり思わなかったり。いや、思わないけど。
…経緯(いきさつ)か。
あれから随分経ったな…
そう思いながら、この世界に来た当時の事を思い出す。
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