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「雨降ってるのに、来てくれて嬉しいよ。早速行こっか」
ケンちゃんはにこりと笑うと、傘を私の方に傾けてきた。
「ケンちゃん……? 私、傘持ってます」
屋根の下で待っていた私の側に、ケンちゃんは傘を差したまま入って来た。彼の大きな傘の中に一緒に収まる。
「せっかくだし、少しでもお喋りしたいと思って。お互い傘を持っていたら話しずらいし、相合傘で行かない? ……ダメかな?」
ケンちゃんは眉尻を下げて優しい声で言った。
「ううん。ダメじゃないよ。私もお喋りしたいです」
笑顔で返すとかれもにこりと笑った。
「じゃあ行こう。あ、そこ! 大きな水溜りがある。気をつけて!」
指差し確認をするように大きな手振りでケンちゃんは言った。
「は、はい。気をつけます……」
ケンちゃんの紺色の傘は大きい。けど、お互い濡れないように肩を寄せ合う。それなのに彼は私側へ傘を傾ける。
「大変、ケンちゃんの肩が濡れてる! 私は大丈夫だから、真っすぐ傘を持ってください」
「俺は濡れても平気!」
私の申し出に、子供のようなあどけない笑顔をケンちゃんは浮かべた。
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