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「約束の時間より早く着いちゃってさ。チケット買うのに並ばせるのも嫌だったし、ついでに下調べもしておこうと思ってね。ここの水族館に来るの俺初めてで楽しみだったんだ。和花ちゃんは? 来たことある?」 「私? 私は…… ごめん。ここには前に友達と来たことがあるの」 「そっかぁ~。でも、ここ観光の定番スポットだもんな」 「あ、でも来たの何年も前だから嬉しいよ。また来たいと思っていたの!」  ケンちゃんが少ししょんぼりしたのが見て取れて、私はあわてて彼をフォローした。 「そう? なら良かった。よし、早速入ろっか!」  彼はぱっと笑顔になった。  さっそくチケットを持って水族館の入口へと向かった。  ふふ。……私と違って切り替えが早いな。 ケンちゃんが落ち込んで見えたのは一瞬で、今はにこにこしている。  暗い館内を進んでいくとすぐ目に飛び込んできたものは、海の中をイメージした水槽群。珊瑚や色鮮やかな魚が私たちを出迎えてくれた。 「うわぁ……すごーい!」  日常から切り離され一気に異世界へ潜り込んだみたいで、目を奪うその光景に思わず声が溢れた。  幻想的な美しさに私がその場で突っ立ったまま見入っていると、ケンちゃんは人をかき分け水槽の前まで連れて行ってくれた。最前列で中を覗く。 「きれい」 「うん。きれい、だね」  泳ぐきらきらの魚を目で追いながらうっとりしていると、彼の声が私の耳のそばで聞こえて、驚いて横を向いた。
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