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「さっきからずっと怪しい所を思い出そうとしてるんだけど、なーんも出てこないや」
はははと、無理やり明るく言ってみる。
そうすることで、重苦しい空気だけでも消したかった。
「ここで考えあぐねてても仕方ない。ひとつひとつ部屋に戻って、怪しい所を捜そう」
そう言って立ち上がる。宇吹さんはこくりと頷いた。
「うん。これまでの傾向からして、犯人が私達を簡単に脱出させようとしているとは、思えないもんね」
「…あぁ」
非情のようだが、俺もそうだと思う。
「行こう…。そして脱出しよう」
俺を見つめる宇吹さんの目は、決意を固めた強い眼差しをしていた。
だけどそこに憂慮の色が、見え隠れしているのも分かった。
……分かってはいるし。前に進もうと思ってはいるのだ。
だけど先の見えない不安に、本当は押し潰されそうなのだろう。
なのに彼女は、そのことを口にはしない。
俺を心配させないようにしているのだろうか?
──やっぱり。絶対に死なせない。
再び心の中で、想いを改めて強める。
微笑んで何も言わずに、右手を伸ばした。
宇吹さんがその手を握り立ち上がると、ひとつ目の部屋に向かうことにした。
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