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ある程度中に入った所で、宇吹さんの様子を伺う。
「大丈夫?無理そうならここで待ってて」
訊くと、また宇吹さんは首を振った。
「ごめんなさい、大丈夫。私も怪しい所を捜すね」
そう言って、握られていた手が離れる。
「じゃあ宇吹さんはあっち側をお願い。こっちは俺が捜すから」
部屋の左側を、彼女に。
丸熊がいる右側は、俺が捜すことにした。
「ありがとう…」
宇吹さんはお礼を言って、左側の壁の方に歩き出す。
それを見届けてから、まずは壁から見ていくことにした。
壁に向かって歩いていると、丸熊が視界に入ってくる。
……本当に、あの丸熊だよな?
近くで見ても、何故か信じられなかった。
丸熊は体のところどころに穴を開けられていた。そこから血が流れ出た、細い筋の跡がある。
両目の光景は悲惨なことになっていて、あるはずの眼球はなくなり、そこには黒い窪みになっている。
そこから赤黒い血が流れ、何かは分からなかったが、白い液体のような物が付着していた。
大量に出ていたであろう血も、今は時間が経ち乾いている。
まるで作り物のオブジェのように─。丸熊は息絶えていた。
本当なら、丸熊の顔も隠してやりたいところだが……。生憎、隠せるような物を持っていない。
……悪いな。
丸熊を見ながら、心の中で謝る。
遺体を見ないよう体の向きを変えて、怪しい所を捜し始めた。
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