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最初の部屋に入ると、鼻につく異臭がした。
ツーンとしたシンナーに、生ゴミが腐ったような臭い。
今まで嗅いだことのない、強烈な臭いに思わず嘔吐いてしまう。
涙目になりながら部屋の中を見渡すと、そこには3体の遺体があった。
秋山と塩田…。そして草壁薫。
死後はバラバラではあるが、部屋の中には腐臭が漂っていた。
「……宇吹さん。中に入るのは……結構キツイかも」
指で鼻を摘みながら、後ろにいた宇吹さんに話し掛ける。
「締め切っていたし、時間も経ってきたから仕方ないね」
そう言うとスッ横を通り抜けて、部屋の中に入って行った。
そんな宇吹さんを、目を開きぱちぱちさせて見送る。
しかしすぐに我に返り、急いで後を追った。
「宇吹さん、臭いへーきなの?」
摘みながら喋るので、鼻声になる。
「平気じゃないよ。かなりキツイ」
苦笑いを浮かべるけど、その割には平気そうに見える……。
「慣れてるって言えば語弊になるけど、一度…嗅いだことがあるから……」
宇吹さんは、悲しそう─。と言うよりかは、無表情に淡々と答えた。
その事実に驚愕はしたが、それ以上は何も訊けなかった。
時折語られる、宇吹さんのこと─。
家に飼っている犬は、私しか世話をしないと言っていた。
お父さんもお兄さんも医者で、お母さんも看護師だと言っていた。
だけどそれらを語る時、いつも寂しげで……。
今はそれらを訊くことは出来ないけど。いつか知ることが出来たらいいなと、思った。
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