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静寂が流れる中、宇吹はただ苦痛に耐えていた。
嘔吐は治まった。だがまだ胃の中は何かがぐるぐる回っていて、それが酷い吐き気となっていた。
それと同時に右腕を中心として、全身が痛みで悲鳴を上げている。
──本当はあの『風船』が割れた時から、痛みはあった。
だがその時は我慢出来る痛みであり、気持ち悪さもなかった。
だから一ツ橋を心配させまいと。痛みのことを隠し、この地下にやって来た。
ここから脱出さえすれば、病院に行ける。
だからこそ、宇吹は脱出することを優先した。
しかしその考えは甘く、儚く崩れ散る──。
痛みは強くなり、針で刺されているような刺激を伴う。
強烈な吐き気にも見舞われ、立っていることもままならなくなった。
宇吹は顔を歪めたまま、右腕のセーターを捲った。
シャツの下の肌を見て、僅かに目を細めながら "納得" する。
風船の中には何か、毒ガスでも入っていたのだろう。
それを一番近くで浴びてしまった右腕の皮膚は、蕁麻疹(じんましん)のような紅斑(こうはん)になっていた。
それが右腕全体に広がり、中には数個の水疱が出来ている。
宇吹はそんな自分の右腕を見ながら、やっぱり……と思う。
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