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──風船が割れた時、臭いもした。
『匂い花』とも呼ばれる花。その臭いはゼラニウムに似ていた。
それで何の毒なのか、宇吹には分からない。
だが毒ガスを吸ってしまったことは、理解した。
一ツ橋さんは、大丈夫だろうか……?
割れてから数分は経っていたと言えど、まだ毒ガスは入り口で漂っていたかも知れない。
……何もないことを祈ろう…。
自分の身よりも、一ツ橋の身を案じた。
つぅー……っと。鼻の下から、何かが伝う感触がする。
ゆっくり左手を動かし指で拭う。拭った指を見ると、そこには真っ赤な血が付いていた。
宇吹は右腕のシャツで、鼻血を強く擦り取る。
全ては、一ツ橋を心配させない為──。
鼻血を拭き取り、捲っていたセーターを戻す。
……まだここで気を失う訳にはいかない──。
脱出の扉までは行かなきゃ…。せめて、脱出の扉を見付けてから……。
消え掛ける意識を宇吹は、グッと必死に持ち堪えさせていた。
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