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俺は駆けた。ただただ駆けた。
『8』のナンバーが秋山だと分かった。その鍵があった部屋も思い出した。
しかし鍵の行方の先を覚えていなかった。
丸熊が床に叩き付けたまでしか、記憶にない。
だがこの部屋に辿り着くこと。それだけしか、頭の中にはなかった。
無我夢中で廊下を走り、階段を上る。
2階すぐの扉を開け、中に入る。瞬間にむわっとした、熱気が襲ってきた。
この部屋に来るのはあの時以来。この熱気を味わうのも、久し振りだ。
でもそれを懐かしむ余裕など、ない。
体を少し屈め、膝に手を付く。その状態で、肩は上下に大きく動いていた。
はぁはぁと声を漏らしながら、切れた息を整える。
全力疾走してきたことと、この熱気が相まって、なかなか上がった息が戻らない。
俯く額から、ポタポタと汗の雫が落ちていく。
顔を上げて、額の汗をぐいっと袖で拭った。
それにより視界に入ってきた光景は、あの時と何も変わってはいなかった。
部屋全体を絡み付くように伸びる鉄パイプ。そこからリズミカルに出る白い蒸気。
拭ったはずの汗は、もう滲み出てきた。
目を閉じ、あの時のことを思い出す。
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