永訣

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それはとても華やかだった。 真ん中に挿さっているのは鍵ではあるが、まるで婚約指輪のように見えた。 青いバラの存在は聞いたことはあったが、実際見るのは初めて。 海を思わせる深い青色は、女性ならうっとりするものなのだろう。 だが良い意味に捉えられない。祝福されている気にもなれない。 むしろ箱の中に広がるこの豪華さが、逆に不気味に見えた。 睨み付けるように、鍵を見る。 そっと鍵の丸い上部を掴み、引っ張ってみる。 何の手応えもないことを確認し、鍵を抜き取った。 ──鍵はこれまでの物よりも、ひと回り大きい。 キラリと鋭い光沢を放ち、新品の硬貨のような輝きを持っている。 ご丁寧に…と言うか。この宝箱の中に相応しく、鍵の裏表にはバラの絵が彫られていた。 俺はこの鍵を握り、もう一度紙の文字に目を向ける。 『急がば回れ』 ……もちろん意味は知っている。 例え急いでいたとしても、安全で確実な、遠回りする方が却って得策だと言うこと。
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