48人が本棚に入れています
本棚に追加
今度は、水元がどこかに連絡を行っていた。瞬は、海晴をコックにしたかった。プロの護衛にしたかったわけではない。
「海晴、いいよ。俺なら、自分でどうにかするから、コックの修業をしていて」
でも、武蔵が瞬を帰さなければ、拉致は成功していたのは確かだった。
「いっそ、俺、炎座に行っていようかな」
瞬は、海晴に殴られていた。
「そうだね、海晴が殴らなかったら、俺が殴ったよ。瞬、護衛はいつも自分の命に護衛対象を刻んでいる」
「ごめん、でも、殴り過ぎ…」
瞬、三メートルは吹っ飛び、壁に激突していた。いつものことだが、壁にぶつかった肋骨が折れている。
虎がやってきて、瞬の切れた唇の血を舐めていた。
「俺も、舐めようか?」
海晴が、倒れている瞬を起こそうと、手を差し伸べていた。瞬は、海晴の手を借りずに、壁にもたれたまま、立ち上がった。やはり、肋骨が折れている、瞬の呼吸が浅かった。
「断る」
瞬の声が小さかった。瞬の肋骨が、数か所折れ肺を圧迫しているのだ。
「毎回、毎回、骨を折ってくれる」
瞬が、壁を伝って部屋に戻ろうとしていた。水元が手を貸そうとしたが、瞬がひと睨みする。いつも穏やかな瞬だが、怒ると、人を拒絶する。
「多分、炎座の武蔵は、いつでも俺を拉致できる。だから、俺に炎座に対しての護衛はいらない。水元さん、会屋を頼む。あいつは、拉致されたら戻れない」
瞬は、自分のベッドにたどり付くと、肋骨を庇って寝転ぶ。殴られるのは正論だが、最初から炎座に行ってしまえば、もう瞬の拉致はないような気もする。炎座は、瞬を殺すつもりはないようだった。
北原に会って相談したかったが、アポイントが取れなかった。
預かり屋のバイトの帰り、やはり夜道で、武蔵が待っていた。
「本格的に拉致しに来た。学校も、連休だし拉致日和だろ?」
拉致日和というものがあったとは、瞬は知らなかった。
「海晴も、呼ぶな。怪我させたくない、誰とも戦いたくない」
既に、水元に知られているだろう。このまま、話を長引かせれば、瞬の護衛がやってくる。
「長引かせないよ」
瞬は腕を掴まれると、空間を転移していた。
瞬が着地した地面は、木でできていた。しかも揺れている。ここは、船の中なのかもしれない。
「どこでも逃げられるだろ?リュックの鏡を奪っても、人間の瞳から逃げるだろ?瞳も映しているから」
最初のコメントを投稿しよう!