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瞬が名を呼ぶと、北原が顔をあげて、何かを探していた。北原は、瞬の顔を見ると、何かを思い出そうとするかのように、じっと、見つめて口元を動かしていた。
瞬は、ふいに理解してしまった。これは、北原の複製品だ。心臓は動いているが、人形に近い。複製師は、知っている。
本人はどこに居るのか?虎丸を瞬が睨むと、虎丸は、顔を逸らして鼻歌を歌っていた。
北原がここに居ないのならば、瞬はこの家に用は無かった。
「都築さんに、護衛は会屋だけでいいと言ってきます。俺は、ランク外ですから、どんなに敵対組織に狙われても、保護外の規定でしょう」
瞬は、兄が居るので『死から来た者』に所属しているのであって、組織に居たいと強く願っているわけではない。
玄関から音がしたので、都築が帰ってきたのかと、瞬は千尋を振りほどいて玄関に向かった。
玄関では、いつの間にか移動していた北原と、都築の熱い抱擁とキスが繰り広げられていた。北原が、複製だとしても、瞬は目を背けていた。
北原の複製は、都築に呼応して、その魂を燃やすらしい。複製に宿る心臓が、熱く燃えていることが、瞬には見えていた。これは、本物と同じなのかは、瞬には分からない。
尻を鷲掴みにされ、揉まれている北原から、甘い声が漏れていた。ぴったりと皮膚に張り付く生地のせいか、手で掴まれた指の窪みが、肉の弾力が、生生しかった。
瞬は、声を掛ける事ができずに、何故か又、涙が落ちていた。
今度は、千都が横に来て、瞬の涙を舐めていた。
「俺に頼んで…」
何を頼むというのか?瞬が、まじまじと千都を見つめる。千都の雰囲気、口調、彼は幼児ではない。
「あんたは、千尋に言葉とコミュニケーションを教えてあげて。俺は、あんたを泣かせる全てを排除するよ」
「何を、排除?」
千都が、笑顔になっていた。
「まず、あれ。あの複製には俺も腹がたつ。親父と別れさせ、処分する。本物の北原は、俺達が保護するから大丈夫。親父の勝手にはさせない」
玄関で、北原の片方の足が都築に抱え上げられていた。北原が、都築の首に必死にしがみついてバランスを取っている。
「ふう……あぁ…あん…あっ…」
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