第1章

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 瞬は、千都に案内されるまま、地下に降りる階段を下った。コンクリートのままの通路は、それでも照明だけは明るかった。  突き当りの部屋のドアを開けると、真っ暗な部屋の中で、照明の当てられた水槽があった。中に水が入っているわけではなく、水槽の中は花が詰まっていた。 「警察は無粋だよな。花は全部捨てられて、とりあえず、綿でも詰めておこうと話していたよ」  今、また、詰められているのは花だった。眠るような瞬のあどけない表情に、ユリの花は不釣合いに見えた。たんぽぽや、しろつめ草の草原のほうが似合っていた。  きれいに保管され、今もただ眠っているように見える。 「触れることができない、防腐処理もされているし」  千都は、暗闇に立って、瞬を見ていた。千都は多分、一歳にもなっていない。生まれるまでに何日かかったかは分からないが、何しろ北神探偵社が閉じてから、一年しか経過していないのだ。 「あんた、きれいだよな」  瞬は、ふと泣くのは止めた。 「俺の方が、かなり年上だから、少しは敬意を払え。まず、あんた呼びを止める」 「…何て呼ぶの?瞬さん?」  千都、急に瞬が強気に出たので、反論できずにいる。 「瞬でいいよ」 「…瞬」  千都が、瞬の名を呼んで、顔を真っ赤にした。 「はい」  千都は、瞬の返事を聞いて、又、真っ赤になってしまった。 「…これが、俺の弱点。だから、これを預かり屋に預けたい」  瞬の死体を預けたいらしい。生肉を扱っているので、死体も預かる事は可能だろう。でも、鮮度を保つ期間は、瞬には説明できない。瞬は、虎丸に電話を掛けて聞き、約十年は鮮度を保てるとの回答を得た。 「俺が、一人前になったら、又、専用の部屋を作って飾る。十年だな、ひとつ目標ができた」  代金は、幼児から徴取するわけにもいかず、引出時の支払とした。  瞬の本に、死体が水槽ごと納まった。 「さてと、親父は終わったかな?あれ、毎日の日課だから」  教育に悪いのではないだろうか? 「それと、武蔵は瞬を迎えに来るよ。組織は会屋が必要だけど、武蔵個人は、瞬に執着している。同じランク外だからかな」  千都、いい読みなのかもしれないが、会屋に聞かなくても、瞬にも少しは相手の素性が分かる。武蔵は、『死から来た者』の出身ではない。エネルギーの違いによる、力の発症が違うのだ。
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