第1章

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 これが、ランクというやつだった。ランク外は、まるで存在を許されていない。売店で飲み物を買おうとしても、店員が無視する。自動販売機で飲み物を購入した瞬は、ベンチに座ろうとして、係員にベンチをどかされてしまった。  預かり屋と名乗れば、多少はマシな扱いになるが、これがランク外なのだ。武蔵の怒りは、瞬には良く分かる。  そして、周囲の対応で瞬がランク外と分かったのか、チンピラのような人物が集まってきていた。たとえ警察内でも、瞬が意味なく殴られても、蹴られても、誰も助けようとはしなかった。暴行は更にエスカレートしてゆき、床に倒れた瞬を、集団が蹴って転がしていた。  ランク外が抵抗すると、相手は余計にちょっかいを出してくる。瞬は、口元の血を拭うと、よろよろと立ち上がり、何も無かったように通り過ぎようとしていた。  無視されたと怒ったのか、相手がナイフを手に持った。流石に警察内で、凶器はまずいと、一人が止めると、ポケットから銃を出していた。  瞬の心臓が撃ち抜かれていた、周囲一面に血が飛び散る。かなり強い銃だったのか、瞬の上半身が飛び散っていた。  上半身を失った下半身が、ゆっくりと倒れてゆく。それでも、誰も助けようとも、犯人を捕まえようともしなかった。  犯人は、悠々と警察を出て行った。 「これが、ランク外なのか」  千都は、社会見学のように、ただ出来事を観察していた。 「そうだね、いつものランク外の扱いだよ」  瞬が、千都の横でペットボトルの水を飲んでいた。 「それじゃあ、俺、本当に用があるから」  今度は瞬は、預かり屋の身分で、水元に面会を依頼する。預かり屋という職業は、かなりレアな職業となる。機嫌を損ねたらまずいと、係員は急いで水元に連絡を取っていた。 「あの、瞬。社会見学はいいけど、あの死体は誰の?」 「知らない、俺、殴られた時点で、逃げていたし。誰?」  瞬は、最初に殴られた時点で、既に千都の横に座っていた。瞬は、逃げたにも係らず、自分の姿が現場にあったので、千都の護衛の誰かが、身代わりを置き、瞬を助けたのかと思っていた。 「誰?!」  にわかに、殺人事件になってしまった。その場に居た警察官は、急ぎ犯人を追いかけ、防犯カメラの確認を始めた。 「でも、ランク外の怒りは分かった」  それは、千都に分かっただけではなかった。この映像が、インターネットで流れていたのだ。
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