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瞬は、学校の後に来ることにした。
喫茶店、談話室はカウンターに四席、テーブルが三席の小さなものだった。他に、個室がひとつあるが、そこは予約しか入れない。神宮寺の母親が、アンティークの案内はする予定なので、そう忙しい予感のしないこの店では、アルバイト二人は多いのかもしれない。
「暇な店なのは、昔と変わらないね…」
「甘いですよ、神宮寺さん!」
もう、瞬が笑ってしまった。ここは、居心地が良い、そう、周囲に認識されてしまったのだ。
亜里沙は、時間限定で、パンケーキとクレープのメニューを手書きで追加していた。
瞬は、中の設備を確認すると、アンティークの小物を漁っていた。
「瞬君、何を焼く気?」
「クッキーとシフォンケーキを焼こうかと」
談話室、一角に電話ボックスを持っていた。静かに電話を掛けたい時に、籠る部屋ということらしい。見た目は木製で出来ていてレトロなのだが、防音になっている。
談話室の由来は、購入したレトロなドアに、ペンキの筆字で、談話室と書かれていたせいだった。神宮寺は、そのまま店の名前にしていた。まめなのに、面倒くさがりという神宮寺らしい名前の付け方だった。
テーブルもイスも、ソファーもアンティークだった。売り物にするには傷があった商品を、実用することにしたのだ。
「それでは、明日から来ます!」
店から帰りかけると、神宮寺は瞬の腕を掴んだ。
「俺、北原さんを取り戻したい」
瞬は、神宮寺の顔をじっと見つめた。神宮寺は、真剣そのものだった。
「多分、北原さんは、遅かった、一年は長かったよ、と、言います」
北原の言葉を借りてはいけないが、どう、神宮寺に伝えていいのか、瞬には分からなかった。
「俺は、最初から人間ではありません。でも、人間と同じように生きる事は可能です。人間が、『死から来た者』になるには、会屋のように職業を得るか、北原さんのように伴侶を得るかです。その後、人間を死にます」
どう表現して良いのかわからないが、一番近いものは、一旦死んだのだ。
「…北原さんを訪ねたら、知らない男が、久し振りだと出てきた。驚いた、で、その後改竄があったと分かった」
問題は、記憶の改竄だけではないのだ。
「俺は生まれつきですから、うまく言えませんが。俺は、黒猫と一緒で、死から来る何かを、この世界で吸収しています。それを他者に渡せます」
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