第1章

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 分かっているのだが、時折、北原と神宮寺の、二人が居た、北神探偵社を思い出すのだ。 「もう寝る」  瞬は、自室へと入る。瞬と海晴は、同居している。寝室以外は、共有スペースになっていて、ケンカもしながら、一年やってきていた。寝室は、かなり広く、瞬は書斎と寝室として、中で二分割している。  海晴は瞬を好きで、瞬も海晴を信頼し頼っているが、キス以上の肉体関係はない。このビルも水元の監視下で、上の階には、高瀬も目を光らせていた。  北原の一件で、虎丸は余計に高瀬に嫌われ、瞬に同じ事をしたら、抹殺すると宣言されている。 「好きなだけでは、どうしようもないよな…」  海晴の呟きだった。料理も恋も、好きなだけでは、上手くできない。  ここは喫茶店だった筈、神宮寺がウエイターをしながら、暫し悩む。 「からあげ定食、一丁」  亜里沙の元気のいい声が響いていた。亜里沙、任務もあるが、瞬と一緒に居られるのは嬉しい。護衛という能力者は、護衛している時間が、生きている事を実感できる時間なのだ。 「和食野菜定食 あがりました」  ウエイターをして貰おうとしていた瞬が、厨房に居た。  瞬が、夕食造りましょうか?と神宮寺に問い掛けた。神宮寺は、瞬の料理の腕前を知っていた。 「たすかる!まともな食事は久し振り」  瞬が、嬉しそうに笑った。それが、元凶だった。  瞬の、御使いの能力が出てしまったのだ。  満員御礼?で営業終了するまで、フル稼働の状態だった。ここは、定食屋だったのか?瞬も少し考え込んだ。  クローズの看板を出し、神宮寺は瞬の淹れたコーヒーを飲んでいた。  瞬が、簡単なおにぎりと惣菜をプレートに乗せ、亜里沙に渡す。亜里沙は、プレートを神宮寺の前に置いた。かなり時間が経過したが、やっと神宮寺の夕食だった。 「亜里沙さん、夕食はどうします?惣菜は山ほど作ってきましたが、多分、水元さんが食べているでしょう」 「オムレツ、食べたい!」  亜里沙の叫びに、瞬が食材を漁る。 「俺にはおにぎりなのに」  神宮寺は拗ねたが、瞬のおにぎりはとてもおいしかった。  高瀬の分と札を付けて、一食、用意もしてきた。水元も、高瀬の分は食べられないだろう。海晴の分は、食料庫に入れている。 「はい、オムレツ」  瞬は、自分の分もつくり、亜里沙の横に並んだ。
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