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「咲那」
「……っ、あの、市倉先輩……っ」
「要」
「あ、えっと……ここ、廊下、なので…」
「……」
咲那と俺には無言の掟がある。
一つ。
空き教室以外ではただの妹で繋がった知り合いであること。
俺には、そんな必要な掟じゃない。
でも、それでも、守らないと咲那はウサギのように逃げてしまうかもしれない気がして、俺は破れない。
二つ。
空き教室では、俺の名前を呼び捨てで呼ぶこと。
俺は、それ以外でも二人なら絶対『咲那』と呼ぶ。
けれど、咲那はそれをしない。
空き教室だけで、『要』と俺の名を呼んでくれる。
これは、俺の頼みに近かった。
咲那に、市倉先輩、と遠い距離で呼ばれるのは嫌だっただけだ。
「咲那、じゃあ、空き教室入って」
「……は、はい…」
三つ。
火曜日と金曜日の昼休み。
その時、この空き教室の前に来ること。
それだけが俺と咲那の触れ合える時間。
恋人同士のような、時間。
あくまで、疑似体験。
……実際は、恋人なんかじゃない。
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