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【新納(しんのう)祐樹(ゆうき):1】
8月の始め。総勢195名の生徒たちが体育館に集まっていた。明日からの長期休暇に向け、簡単な注意事項などを受けるだけの集まり。
だけど教師に代わって壇上に立ったその男は、開口一番にこう言った。
「それでは皆さん、戦争を始めましょうか」
誰なのかもわからない男の言葉に僕たちが唖然としていると、そんな様子を気にも留める事なく男は話を続ける。
「戦争と言っても、政治やら軍隊やらはありません。皆さんにやってもらう事は至ってシンプル。ただの『殺し合い』です。ああ、それとこれから入る予定だった長期休暇の件ですが、無くなりましたのでご了承下さい」
周囲がざわつき始めていた。誰もが話に付いていけず、困惑した表情を浮かべている。
「なんの冗談だ? なぁ、祐樹」
背後からの声に振り向く。そこには友人の須藤(すどう)圭介(けいすけ)が立っていた。やはり他の人たちと同様に怪訝な顔をしているが、それは僕も同じ事だった。
「ではルール説明を始めますので、よく聞いて……」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 言ってる意味がわからないんですけど」
溜まり兼ねたように1人の生徒が手を挙げて男の言葉を制した。それを見て男は僅かに間を置いて周囲を見渡す。
「あぁ、これは失礼しました。どうも私は話が苦手なもので、すぐに順序がちぐはぐになってしまう。そういえば自己紹介もまだでしたね。私はノウミと申します。ではまずは皆さんの置かれている状況からですね」
置かれている状況。それが何を意味しているのか、それはノウミと名乗った男の次の言葉で誰もが理解できた。
「あなた達は敗戦国の人間です」
敗戦。それはまだ各地に戦争の爪痕が残るこの国の者にとって、痛く重くのしかかる現実だ。今やこの地は名前を持たず、僕たちは生まれ育った国を失った。
「今は亡き喬国の方たちは、我々『山楊(さんよう)』、『流旬(りゅうしゅん)』、『瑚大(ごだい)』の三カ国の支配下に置かれています。今までこれを重く捉えていなかった方もいらっしゃるかもしれませんが、要するにあなた達は奴隷同然なわけです」
明らかに周囲に動揺が広がるのがわかる。奴隷という言葉を淡々と語るノウミに悪気は無いのだろう。しかしそれを面と向かって告げられた者にとっては、簡単に無視できるものではない。
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