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ある、嵐の晩だった。
叩きつける雨の中を進む小さな人影。
『ちくしょうっ、いつか必ず返してやる。借りを返してやるからな。』
その人は復讐を想っていた。
女性だった。
吹きすさぶ風の中を、彼女は進んでいた。
流された血の代償。
何をしても取り戻せるものではないが、必ず償わせてやる。
償わせてやらなければならない。
だがしかし、現実は非情であった。
川が溢れ、増水した水が道に流れ込み、靴の裏から感覚をさらって行く。
『でも、今はダメだ。今は逃げるしかない。だが、必ず戻る。必ず……』
ひどく荒れていた嵐の晩だった。
それでも、彼女は進むしかなかった。
彼女は強大な悪意の前に倒れていった仲間達の最後の言葉を想い、
また、逃げの一手しか打てず、辱めを受けたままの自分の魂を呪った。
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