第2章

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「報告は以上です」 とあるギルドの会議室で、この俺宮富士千尋は先日ダンジョンで見た黒騎士について話していた。 国の柱である帝が所属するギルドでは、週に一度定例会議が行われている。それが今日だ。 「そうか。君でも勝てそうにないのか?」 巨大な斧をテーブルに立て掛けた老人、茶帝が困ったように言う。 「いえ。単純な力でなら、負けていません。ですが……」 思い出されるのは三人組の呼吸の揃った連携。何度もあの黒騎士に挑み、分析と研究を繰り返していった結果が念願の勝利。 果たして、俺にはあの恐怖に立ち向かう度胸と圧倒的な相手に勝とうという熱意があるのだろうか? 「俺はまだ、経験が足りません」 これまで全ての敵を一方的に倒してきた俺には、経験と呼べるものがあるのか。苦戦を強いられ、それでも立ち向かう勇気があるのか。 俺には分からない。 会議を終え、アカデミー近くの下宿先へ転移門を潜って移動する。 転移門は特定の場所からしか使えない。巨大な魔法陣を描くスペースはそう簡単に確保できないのが理由の一つ。 詠唱型の転移魔法もあるにはあるが、町中等に無断で転移してはならない決まりがある。 特定の場所に転移する前に連絡を入れて、誰かと転移が被らないかを確認してからようやく転移の許可が出る。 もしも誰かと被ってしまえば、転移事故と呼ばれる体の一部消失や、半分ずつ繋がってしまうという摩訶不思議な事が起こってしまう。故に、厳重な管理体制が敷かれている。 「ただいま」 「ん?おかえり」 中に入ると、恭哉がエプロン姿で出迎えてくれた。 一階八部屋二階建ての計十六部屋からなる下宿先。 恭哉と住む部屋は二階の端っこなので生活音に困らされる事はないが、登り下りが地味に面倒だったりする。唯一のお隣さんも、恭哉曰く物静かな人らしいので騒音に悩む事はないだろう。 「しっかし、一軒家住みを拒否するとは勿体無い事をするやつだなーお前。女の子二人と三人暮らしだろ?」 「王女様とその世話係りな。恭哉がこの部屋で、俺が一軒家ってのもどうかと思ったし」 「と言っても一人じゃ広いから助かるっちゃ助かるが。何が悲しくて男と二人暮らしせにゃならんのじゃい」 そう言いながらエプロンを外す恭哉。夕食はもう出来ているらしく、玄関先まで食欲をそそる芳ばしい匂いが漂ってくる。やはり恭哉は料理が上手い。
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