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アアアアアっと腹底から捻じ曲がった叫び声が聞える。良子は、怜の名前を連呼し続ける。涙声だった。得体の知れないものに、息子が失われる、こらえきれない感情に心がつぶされ、怜と同じように、アアアアっと叫びはじめた。棒立ちになっている怜に、良子はしがみついている。両手で、愛する息子を掻き抱いている。ふたりの断末魔。上空では、雷光が雨雲にまとわりつき、2人の叫び声をかき消しはじめていた。
ザクッザクッと音がして、キャップをかぶった白いバンの男が、良子と怜を見つけ、白い光に向かい合った。白いバンの男の口から白い息が吐き出され、ため息のような何かの言葉がつむがれた。煙はゆらゆらと揺らいでいたが、上空から突如振ってきた黒いタールのような塊に突き刺され、湖面に落とされた。落とされたにもかかわらず、湖面は揺らぐことはない。ふわりとやわらかくそのまま、タールを包み込むと、まじりあった。まじりあったあと、白い煙は徐々に白を取り戻し、湖面に触れた。湖面に大きな波紋が波たち、小さな竜巻を作った。竜巻が上空に消える頃には、黒のタールの塊も、白い煙も、消えていた。
白いバンの男は、ポケットの中から携帯を取り出した。しばらくして、男は終わったよとつぶやいた。
ロッジのテーブルは水浸しになっている。女将は、おおきな白い皿に残っている水を、人差し指で混ぜ合わせると、ふっと笑った。2階から降りてきた白いバンの男は、気絶した親子をベッドに運び終えて疲れていた。
「姉さん、やりすぎじゃないのか?」
大きくため息をつきながら、水浸しになったテーブルを拭く。
「いいのよ、あんなの、ただのワガママの被害妄想よ。…めんどくさかったのよ」
「けど、あんなに道が開いてたんだぜ」
女将の弟は、眉間を手のひらでピチピチ叩いた。女将は弟をじっと見ていたが、ハッと嘲笑った。
「そんなのアンタもおなじじゃない。そんなことより、これから、どうなると思う?」
「どうなるって・・・あの子は、もう、役目を終えたろう?」
「あの子、器としてサイコウよ!アンタはもう、器として機能しない。だって、知ってしまったから」
「なら、姉さんは、あの子が知るまで器として仕事させる気かよ」
「そうね、あの子が持ってくるものはフツウより大きいからね」
「教えてもやらないで、最低だな。知るまでほうっておく気なんだろう?」
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