邂逅

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 白いバンの助手席には、良子の夫、怜の父が手を振っていた。その場にふさわしい明るい笑顔。異質というならば、太陽の降る笑顔の中で、終始怪訝な顔をしている良子。もしかして、私がおかしいのかしら。あの怜の不登校はなかった、のかしら。 「母さん、父さんが来たよ」 振り返る怜は、太陽のように笑っていた。  ロッジから帰宅する車の助手席で、良子は夫を見やり、また怜を見やった。車窓から見える山は大きくて、どこまでも続いているように見える。夫は満足そうに微笑んでいて、怜はすやすやと眠っていた。この一週間、怜は劇的に変化した。変化したのは、あの光のせいだ、と思っていた。だが、怜にそれを聞いても笑うだけで、夢を見ていたんじゃないのかと、何度も言われた。女将も白いバンの男も、そう言った。夫は、怜が変化したのは、この自然のおかげだとひとりで得心して、良子の話も取り合ってくれなかった。女将をそんなに悪く言うな、とも言われた。良子は混乱していた。だけど、何が起きたのかを明白にしようとすると、怜の笑顔を失うような気がして、できなかった。ただ、良子は忘れることを選んだ。  休みを終えると怜は再登校をはじめた。まるで嘘のように、毎朝笑顔で玄関を出て行く。そうして3ヶ月もすると、良子は働き始めることになった。家庭に笑顔が戻ってきた。  学校から帰宅した怜は、冷蔵庫からアイスクリームをとりだし、ランドセルを置いた。どこかに電話する。 「ああ、あの、3ヶ月前にそこに泊まったんですけど・・・・はい、そうです。僕、わかってます」
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