邂逅

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 起きている現実と女将のその言葉が、あまりにも乖離していて、何を理解していいのかも良子はわからなくなった。あの雷鳴を見て、息子が声をあげたことと、今、女将が話そうとしたことは別物だった。今、女将が話そうとしていることは、良子と怜にあるものだ。日常に逃げてきたのに、知らない人間に知らない場所で、このタイミングで、さも知っているかのように言われるのは、ひどく心外だった。あの出来事を通して、彼女が言いたいことを脈略もなく言っているだけ、良子というゴミ捨て場に吐き捨てているようにさえ、感じた。 「ひとは、その冷たい感情を心で知りながらも、うまくひとと生きていく。そして、大人になって、そんなに人って冷たいものじゃない、だなんて、錯覚する。…想うことをやめるからよ。そんなことにかまってられるほど、暇じゃないからだわ」 「だけど、怜君には、かまってられる時間があった」 「そして、かまうばかりか、それを全部で知るだけの恐怖があった」 「悪意や好奇心の塊、と、未熟な愛のまわりにあるもの」 「それがひとつ、ひとつ、大きくなると、怪物になるの」 「怜君は、それを引き取った器でしかないの。もともとは怜君のものじゃないわ。あの子はそれを知ってもどうしたらいいか分からなかっただけ。器に溢れるほどに大きくなって、怪物になった。けど、たぶん、もう、それは怪物じゃなくなる。だけどね、怪物じゃなくなっても、それは残る。ここに残る。だけど、怜君は残らない」 「アレが結論を出すわ。あの子を忘れないで。」  女将の話を、良子は半分も分からなかった。わからなかったばかりか、ただ、怜がひどくかわいそうだと思った。着ているものをはぎとるかのように、勝手なことばかり言われたと感じた。怪物、というその意味すらもわからず、女将の言葉の理不尽さへ、怒りを隠すことはできなかった。 「ふざけんじゃないわよ!言ってる意味がわからない」 「分からなくても、ことは起きはじめてる」  思わず頭をふりながら、全身で良子は拒絶した。窓を叩く雨音が、風にあおられて、さらに大きくなった。風の音も、窓の隙間から、ビュービューと聞え、ガタガタと窓が鳴る。良子がふっと窓の外を見た。怜が見ていた光がちらついているようで、ぞっとした。 「何かがやってくるの?怜はいなくなるの?」 「わからない」
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