第1章

13/18
前へ
/19ページ
次へ
「ハッ、なんともわかりやすい答えだね。まぁ、それでいい。君は考えるより、行動するほうがいい。さぁ、ここに行きたまえ。そこで蛇目日傘が待っている」 伊織は蛇目日傘の潜伏先を記した地図を山都に渡したけれど、受け取ったのは良いがまだ、半信半疑だった。 「握りしめた拳を開くな、考えたところで答えはでない。自分の目で確かめろ。そうしなければ陰火が身体をはったことすら踏みにじることになる」 変わる。人は変わる。良くも悪くも変わっていく。陰火だって変わった。 「わかった行ってくる」 悩みを吹っ切り、山都は降りしきる雨の中を走り出した。 「雨、雨、降れ触れ、母さんがー蛇の目でお使いうれしいなーぴちぴち、ちゃぷちゃぷ、ラン!! ラン!! ラン!!」 雨合羽に身を包みながら蛇目日傘は陽気に歌っていた。部屋の中にはさらってきた少女が眠っている。屋敷に襲撃してから数日が過ぎた。あれから街中で山都大聖を何度か見かけたが、声をかけることはしなかった。 まだ、そのときじゃないと思ったし、山都大聖が自分と同じ力を持っているか、半信半疑だったからだ。あのひったくりを捕まえる時に見せたあの力、赤色の衣に身を包む少年と、山都大聖が同一人物なのか確かめる必要があったからだ。 彼と再会したのは、ほとんど偶然、新しいターゲットを探して街中を歩いていたときに偶然、見かけただけ、どう声をかけようか迷っていたときに都合よく、事件が起こり、そして彼は力を発現させた。最初は見間違いかと思ったが、すさまじいジャンプでビルの屋根に飛び上がった時、これは自分と同じ力なんだと確信した。 「どうしてこんなふうになっちゃうんだろ。相手が山都くんじゃなかったら遠慮なしにぶち殺すのになぁ」 蛇目日傘にとって、山都大聖は初恋の相手である。本ばかり読んで空想の世界に浸っていた自分を強引に引っ張り出した。  「まるで物語の王子様みたいだった。初めて男の子と手を繋いだのも彼だった」 ギュッと胸のあたりに手をあてて、彼と初めて出会った日を思い出し、蛇目は軽く、まぶたを閉じた。 この蛇の力が発現したのは、高校生になった直後、もともと身体の目立たない部分には蛇の鱗があったが、力の発現と共に鱗は全身に広がり、体内から大量の蛇を生み出せるようになったのはつい最近、そしてドンッと彼は現れる。赤色の衣に身を包んだ姿、間近で見れば彼が山都大聖だとわかる。温かい光。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加