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着ろと命令したつもりはないと伊織は言うが、反論も面倒になった山都はゴロリと布団に寝そべる。今度ばかりは本当にマズかった。助かったのは奇跡に近い。
「子守歌でも歌ってあげようか?」
「やめてくれ」
「一つ聞きたいんだけどね、どうして!あの時、殴らなかった? 蛇の弾丸を避けて、急接近したとき拳一つで彼女を倒すことはできだ。なのに、なぜ、途中で拳を止めた?」
「友人だからじゃ」
「嘘だね」
伊織は言い切る。
「君、わざと攻撃を受けただろ」
「…………あのままじゃダメだの思ったんだよ。仮に蛇目を殴って倒しても、あいつは変わらない、なら、あいつの憎しみとか、そういった奴を受け止めようと思ったんだ」
「それで死にかけているんじゃ、洒落にならないね。まぁ、今のところはおとなしくしているようだし、よしとしようか」
パンッと伊織は両手を重ねた。まるで読み終えた本を閉じるような。
「人は変わる。空のようにこくこくと変化していくものだね。じゃあね、山都、ゆっくりお休み」
そう言うと彼女は出て行く。山都は呼び止めなかった。
人は変わる。良くも悪くも、死を望む真朱も、鬼だった陰火も、友人の蛇目も、そして物語の神様である伊織だって、少しずつ変化していく。
「山都、ね」
いつもフルネームで呼ばれていたのに、いつの間にか山都と呼ばれていた。その小さな変化に気づき、苦笑し、
「強くなりてぇなぁ。誰も泣かせない強さが欲しい」
そして、山都大聖も少しずつ変化していく。
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