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友人が家を訪ねてきた。彼は気だるそうに頭を掻くと、
「まあ、めんどくさい話は後だ。早く実物を見せてくれ」
「ずいぶんあっさりしてるなぁ……。分かった、ちょっと待ってて」
僕はそう言うと男をリビングに残し、自室から小箱を持ってきた。落とさないよう、慎重に。
そして友人にそれを見せると、彼はそれに手を伸ばす。しかし僕はそれを制止すると、
「待ってくれ、1つだけ約束してくれ。こいつのふたを絶対開けないと約束してくれ」
「ふたをか?まあ別に開けて何があるかなんて探る気はないからいいが」
友人はそう言って、ふたを開けないように小箱を見始める。その目は真剣そのもので僕も緊張してくる。そして彼はそこの文字を確認すると小箱をテーブルに置き、
「ふぅ、こいつは驚いた。これは藤佐の作った物だ。つまり本物さ」
「ほ、本当か。それは良かった……。てっきり偽物なのかと」
「それはない。この箱の造形、作り、手触り、そしてそこの刻印は間違いなく藤佐のものだ」
そうか、と僕は感動するとともに何故あの箱が藤佐の作品に含まれていないのか、気になった。ふと友人の顔を見ると、彼の顔は若干曇っている。何か不都合なことなどあったろうか。
「どうした?本物なんだろう?そこは喜ぶところじゃないのか?」
「あ、ああ……。いやなに、ちょっと前に聞いたある噂があってな。それに出てくる小箱とこれがほぼ一致するんだ」
噂?と僕が聞くと友人は頷いた。そして語り始めた。
「藤佐は、”整った形が最も美しい”と考えていたらしい。その中でも冴えたる物が、”箱”なんだそうだ」
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