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キイッと個室のドアが開き、中から出てきた人が手洗い場の鏡の前で項垂れる僕の隣に並んだ。
手を洗い終わり、それでも動かないその人に、もしや僕が邪魔なのだろうかと顔を上げる。
隣に居たのは、明らかにだいぶ年上なのに、妙に儚げな雰囲気を持った男の人で。柔らかな微笑みを浮かべて、こちらを見ていた。
「大丈夫ですか?落ち着いて、頑張って下さいね?」
緊張に打ちのめされていた僕に、唯一温かい言葉をかけてくれた人。天使だ、天使がいる。
一瞬で、恋に落ちた。
どうしよう、一目惚れって初めてだ。あの人は面接を知っていたから、きっとこの会社の人に違いない。
会釈をして去っていく姿をうっとり眺めて、限りなくゼロに近かった力がみなぎってくるのを感じた。
僕は、なんとしてもこの会社に入社する!
その後の面接では、何処から捻り出したのかわからない実力以上の何かを発揮したらしい。
僕は天使の様なあの人と同じ会社への就職を果たし、何の奇跡が起きたのか、研修生を担当する教育係として現れたあの人と、運命の再会をした。
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