第1章

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「まったく、我ながら本当に腐ってんな」 と、タケヤはぼんやりと自嘲的に呟いた。  随分前までの彼は今からは想像つかないほど活発で何にでも積極的だった。小学校のときは当然の様に何にでも真剣に打ち込んでいたし何をやっていても楽しかった。中学、高校に上がってもそれはあまり変わらず、小学校から続けていたバスケットではインターハイにもレギュラーで出場した。あの頃は将来にだって希望を持っていたはずだ。しかし、高校三年の頭くらいだったからか、何時の間にかバスケット部には顔を出さなくなり、その頃には既に何をやっても楽しくなく何事にも熱中できなくなっていた。 「そういやアレ以来か……」  記憶を巡り、そう口に出した直後、まるでその言葉を遮るかのごとく、ぐーっという情けない声で腹の虫が鳴いた。 「……腹減った」  そういうと、また一つ、大きな溜息を空に放った。もう最後にまともに食事を摂ったのも思い出せない。タケヤはズボンのポケットから黒い長財布をとりだし、手の平の上で逆さにして振ってみた。  数枚のコインが手の上に落ちる音。はなっから札が入っていないことは知っている。タケヤは落ちてきたコインを大事そうに一枚一枚丁寧に数えた。十円玉が四枚と五円玉が一枚、それと一円玉が三枚で占めて、四十八円。  駄菓子でも買えってか。  タケヤは何かを諦めたように小銭を財布の中に戻しそれをポケットに入れた。 「腹減った。これしかなくて、これからどうすりゃいいんだ。」  囈言のように呟き雲をみる。 「―――美味そう」  その空腹感からか雲すらも美味しそうに見えてきた。 「ん?」  と、不意に視界の隅に何かが映り、タケヤは気になって視線を落とした。 タケヤの頭にいくつものハテナマーク。さっきまでには見覚えのないものがそこにいた。というよりも、先ほどまで居なかったのだから現れたというほうがただしいのか。  それは一人の可愛らしい少女だった。小学校一年生か二年生程度、黒く長い髪に白のノースリーブのワンピース。その手には何が入っているのか、めいっぱい膨らんだ小さな手提げのバックを持っている。そして、そのくりくりとした瞳は何故かタケヤの方をじっと見つめていた。  どうしたんだろう、と思い辺りに少女の両親ないしは友達の姿を捜す。が、それらしき人物は見当たらない。それどころか公園にはタケヤとその少女の二人しかいなかった。
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