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とりあえず下手に関わってロリコンの不審者扱いされたら嫌だなぁと日和見根性全開で目線を逸らしたり口笛を吹いたりしてみるが、少女はただずっとタケヤの方を見据えている。
結局先に耐えられなくなったのはタケヤのほうで、少女と目を合わせて、
「どうしたの?」
と、少し引きつった声で訊ねた。子供になれていないために微妙にどう対応したらいいのかわからからず内心で悩みつつも、どんな答えが返ってくるのか、それとも返ってこないのか、と少しビクつきながら返答を待つ。
どれ程度時間だったか、少女がふと口を開き舌っ足らずに言った。
「おじさん、お腹がすいてるの?」
その言葉に一瞬タケヤはきょとんとしてしまう。別に二十五歳なのにおじさんと呼ばれたからとか、そういうチャチな理由じゃない。小学生だろうお子様に突然お腹の心配をされるとは思ってもみなかったからだ。まぁ、確かに空腹の絶頂ではあったが。
「私のお願い聞いてくれたら、これあげるよ?」
あまつさえ菓子パンまで差し出されてしまった。流石の俺でもまさか、小学生から食べ物を恵んで貰う訳にはいかない。と、今をときめくニートのタケヤにだってそれくらいのプライドはあった。
タケヤはどうにか菓子パンの誘惑に耐えながらそれを振り切ると、ふと、今、彼女の言ったことに対する疑問について尋ねた。
「確かにお腹はすいているけど、さすがに君からから食べ物を貰うわけにいかないよ。それよりもお願いって何?」
多少は慣れたらしい。今度は声が引きつっていなかった。
女の子は返されたパンを見て少しの間考えていたが、
「パン食べたら教えてあげる」
と、もう一度パンを差し出してきた。
何を考えているんだこの子は? そんなにも俺がパンを食べることが重要なんだろうか。そんなことを考えつつも、自分の中で何時の間にやら妙な葛藤がうまれていることに気がつく。頭の中で悪魔と天使が囁いているのだ。さっさとパンを貰ってとトンズラこいちゃえよ、いえいえ、パンを貰ってきちんと彼女のお願いを聞いてあげるのですよ、と。
天使と悪魔対タケヤのプライドの葛藤。
―――つか、どっちも貰うの前提かよ。
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