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ストーブが止まり暖気が失われていく教室で、真也はその流れる黒髪に見とれていた。沈み始める夕日に照らされ際立つのは、その髪の毛だけではない。彼女の存在そのものが、真也の中で大きくなる瞬間だった。
彼女の名前は堤歌織。真也とは高校まで同じ学校だが、今までクラスが違っていた。高校に入って同じクラスになった。メガネをかけており、確かに美人ではあるが、昔から目立つような存在でもない。交友関係も狭く、決まった友達と静かに過ごすタイプだろう。
彼女はただ窓際の席で夕日を眺めている。ウォークマンを忘れた真也が、教室に入ったことさえも全く気付いていなかった。緋色の空をただ見つめるが、歌織の顔はすごくつまらなそうだ。
「堤?」
「……」
声を掛けるも、歌織からの反応はない。
「堤」
「はい?」
少しだけ声を大きくすると、気怠そうな眼差しで真也を見る。その時初めて歌織の顔を直視した真也は、驚きで口をつぐむ。高校に入学してからもうすぐ二年になる。歌織を見たことは何度もあれど、歌織だけを注視する機会などなかったのだ。
眼鏡越しの瞳を綺麗だなと、真也は心からそう思った。
「片瀬君どうしたの?」
「え、いやなんでもないよ。堤こそどうしたんだ? 外なんか見つめてさ。なにか面白い物でも見つけたか?」
「別にそういうわけじゃないわ。なにもないから、いいのよ」
真也はその寂しげな表情と言動から違和感を覚えた。
彼女の存在は特に目立つわけではない。しかしこんなにも美人で大人っぽいのだ。自分よりも年上にさえ見えると思った。
だからこそ、そんな表情をしてほしくなかったのだ。
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