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口を開く度に出る白い息が、二人の間を往復する。
「堤の家はどこにあるんだ?」
「私の家は駅の向こう側よ。ここから十分くらいかな。片瀬君は?」
「俺は駅のこっち側なんだ。商店街の端っこでさ、五分もあれば帰れる距離さ。家から学校が近いから選んだようなもんだしね」
真也の発言に「私もなんだ」と相づちを打つ。二人は今同じことを考えた。もっと早くに出会っていれば、もっと多くを語れたに違いないと。
知っているだけの関係から進展した二人は、分かれ道に着くまでしゃべり続けた。しかし小学校からの会話を消化するには、途方もない時間が必要だろう。こんな短い時間では足りなくなるほどの、そんな時間が必要なのだ。
「じゃあまた明日な、堤」
「うん、また明日」
商店街を抜けて、駅のロータリーが二人の分岐点。真也は別れを告げて背を向ける。まだ話を続けたいけど、後ろを振り返る勇気もない。だから今はただ歩くことしか出来なかった。
「情けねぇ……」
そう呟きながら、明日を待ちこがれる自分がいることに、真也はまだ気付かない。
ロータリーからしばらく歩けばもう家は目の前だ。
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