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「ただいま」
静まりかえる家の中、灯りをつけながらリビングへと向かう。家に生命が宿るような、そんな光景だった。
ソファーにカバンを投げ、そのままキッチンに移動する。夕食を作り風呂を洗うのは真也の日課だった。
真也は父と二人で暮らしている。母親は十年前に病気で他界し、真也は七歳の時から今までずっと父親に育てられた。父親が夜勤の時は当然真也一人になるが、小学生の時から続けていれば必然として慣れもでてくる。
母親が亡くなった時の寂しさにも、今は堪えられるようになった。父親との間も悪くない。
「一人か……」
慣れたと思っても、やはり時には物寂しくなってしまう。そしてさっきまで隣にいた人物を思い浮かべながら夕食を作る。他のことを考えていても手は動き、自然と出来上がっていた。
「白米と味噌汁、それに野菜と玉子焼きがあれば充分だよな」
真也は簡素な料理ならば考えなくても作れるようになっていた。
「いただきます」
一人で食事を始め、また歌織の顔を思い出していた。正確には歌織といた時間だろうか。
黙々と箸は動いているが、頭は今日の出来事を消化しきれていない。こんなにも彼女が気になる理由を探しているんだ。確かに共通点の多さ故の興味はある。だがそれ以上に気になっている。
「別に堤が好きだってことはないと思うが……」
真也も人である以上は恋の経験もあった。だがそれともまた違った感情が芽生えていた。
「考えたってわかんないものはわかんないよな」
たくさん作ったサラダと玉子焼きの器に、ラップを掛けていく。冷蔵庫には入れず、キッチンに置いた。それは朝方になると帰ってくる父親のため。真也の父親は帰ってきてから勝手に暖めて食べる。そして顔を合わせた時に、必ず礼を言う紳士でもあった。忙しいときなどは、それはそれは綺麗な、男性らしくない華奢な字で礼を書いた置き手紙などを残すこともあった。
その後風呂を洗い、お湯が浴槽を満たすまでテレビを見る。しかし真也の瞳は番組を映していない。テレビは見ているのだが意識は別の場所にあるといった感じだ。
「やっぱりつまんねーな」
真也は毎日これを繰り返していた。
テレビを見ても興味が湧かないため、見ていてもつまらない。実際は真也が番組を見ようとしないだけなのだが、それでも彼は流動的にテレビを付ける。
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