第1章

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 二十分くらい画面を見続けて、そろそろだろうと風呂に向かう。お湯が溜まっているのを見て、つまらない時間が終わったのだと安心した。これといった趣味もなく、何かに心惹かれることもない。そんな真也が『つまらない時間』と思っているのは、一人だけの空間を差していた。  真也自身でもわかっている。  孤独に追い込まれた時に、真也はつまらないと世界を否定するのだ。  風呂に入っている時間も疲れを取るわけでもない。そう、彼は『それが当然』だからしているだけだった。何が当然か。その概念もないまま、過去に教わったことを繰り返している。  湯船で膝を抱えると、堤歌織のことが脳裏をかすめた。 「なんで堤の顔が浮かぶんだよ……」  真也が浴槽から出ると、お湯が勢いよく流れ出た。いままでずっとお湯を出し続けていたことに、今更気が付く。 「どうかしてる」  気になる。  彼女の存在などではない。真也は歌織の、あの寂しそうな表情が気になって仕方ないのだ。 「俺には自分の居場所だなんて、そんな小難しいこと考えられねーよ」  部屋に戻ってから歌織の言葉が深いことを知る。彼女は教室で一人、自分の存在価値を探していた。理由はわからないが、真也はできるだけ力になりたいと思うのだ。そしてその理由もまたわからないまま。  普段使わない部分の脳みそを使ったからか、真也は疲れて眠気に襲われる。布団に潜り、明日への希望を少しだけ、ほんの少しだけ見いだしていた。
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