お師匠様

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あのお方はある日突然、ふらっと1人でやって来られた。 「あんにゃちゃん。5番、フリーのお客さんね」 「はーい」 特に指名もなく、待機室でまったりしているとボーイに呼ばれる。 5番席のフリーか、と思いながら、いつもどおりに待機室を出ようとするとキャストがワタクシに話しかけてきた。 「5番やばいよ。 マジで全然、話さないから」 どうやらさっき、5番席についていたらしいキャストだった。 「本当!何でここに来たのって感じだから」 若干、キレ気味にまた他のキャストがワタクシに声をかける。 そうやら5番のお客さんにはすでに2人のキャストがついたらしいが、2人に対してまったく話さなかったようだった。 「マジか……」 ここはキャバクラ。 トークがなければ何も進まない。 いくら話を引き出そうとしても、言葉のキャッチボールが出来なければそこは地獄の空間へと早変わりする。 ただ気まずい空気を漂わせながら刻一刻と時が過ぎるのを待つ。 お客さんにとっても地獄だろうし、キャストにとっても地獄なのだ。 「うああぁ。行ってくるよぉ……」 肩をがっくりと落としながら待機室の扉を開く。 後ろからみんなの、同情の視線を感じた。
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