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南カリメコ大陸東沖。
レアオー海域。
深夜。
天幕を降ろしたような雷雲が立ち込める下、一隻の船が大波に揉まれている。
決して小さな船ではないが、荒れ狂う大海に浮かべれば、それは玩具も同然であった。
風を捕まえ動力を得るために存在していたであろうマストは無残に折れて、その名残りが申し訳程度にちょこんと甲板に生えていた。
飛沫は船を超えて高く上がり、甲板を濡らす。
時折大波が船を襲っては甲板上のすべてを攫っていった。
船が揺れ傾く度に船内では阿鼻叫喚を極めたが、それすら容易に掻き消すほどの轟音が轟いていた。
船を一回りも二回りも上回る波がやってきてその船を転覆させたのは、それから間もなくのことだった。
数日後、白砂の海岸に一人の人間が打ち上げられた。
日差しを受けて透き通る薄い肌。
華奢な手足で重たそうに身を起こすと、やがてふらふらと歩き出した。
首にかけたペンダント。そのチャームを握りしめる。
しばらく宛てもなく歩き続けていたが、やがてもつれた自身の足につまずいて転んだ。
「お父さん……お母さん」
掠れた喉から響いたのは少女の声であった。
涙が零れる。
少女は片手でチャームを握りしめたまま、空いた手で自身を抱きしめた。
そうしてしばらく、じっと動かなかった。
顎ほどの長さで短く切り揃えられた絹糸のような白髪が、白砂の浜の中でも一際輝いていた。
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