入学

3/10
前へ
/96ページ
次へ
「びっくりさせないでよ」 荷物を整理していたであろう手を止めて、 むくれた顔を向けている。 一見すると、少女に見えた。 だが、ここは、男子寮だから、 そんなはずはない。 俺より、二歳程年下だろうか。 思わず見惚れてしまう程に、 綺麗な顔立ちだった。 「君がルームメイト? 入らないの? 僕は、クラレンス・エンジェル。 これからよろしく」 俺は、ドアを開けてそのままの態勢で、 突っ立っていたのだった。 「あ、ああ、よろしく。 俺は、アレクシス・アーリス」 「そう」 そいつは、短くそれだけ言うと、 再び、荷物を片付け始める。 他に言うことも見つからなかったので、 黙って部屋に入った。 俺の荷物も既に届けられ、 ベッドの横に置かれていた。 片付け終わったのを見計らい、声を掛けた。 「なあ、少し外に出てみないか?」 「今日は、寮から出ないように言われているでしょ」 ぴしゃりと窘められた。 「そう言わずに。 必要最低限とは言われたけど、 絶対だめとは言われてないからな」 「屁理屈だよ」 「なあ、少しくらいいいだろ? 暇だろ?」 「暇なら、予習でもしていたら?」 正論だとわかってはいるが、イライラする。 俺は、ベッドにどさっと、座った。 なんだよ、と小声で呟きながら。 「早く、荷物、片付けてよ。鬱陶しいから」 何だか、癪に障る。 「はいはい」 と、適当に返事をして、ベッドに転がった。 クラレンスは、 それ以上、何も言ってこなかった。 しばらくして、 俺は、渋々、荷物の片付けを始めたのだった。 クラレンスは、 俺がバタバタと片付けをしている間も、 ずっと、何かの分厚い本を読んでいた。 それから三時間もすると、 外は、薄暗くなっていた。 片付けを終え、 再び、ベッドに横になったのがいけなかった。 すっかり寝てしまっていた。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加