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袖を通したばかりの真新しい制服に身を包み、
入学の式典が行われるホールへと向かう。
周りには、同じような新入生が大勢いる。
心が躍る。
胸を張り、颯爽と歩く。
誰にも、馬鹿にされる筋合いなんてない。
わたしは、
王立アカデミーに入学するんだから。
もう、過去は振り返らない。
「待ってぇ!
リリー、置いて行かないでよぉ」
聞き覚えのある声が追ってくる。
わたしが振り向くと同時に、
彼女は、段差も何もないところで転んでみせた。
「何やってるのよ」
わたしは仕方なく手を差し出す。
彼女は顔を上げ、
今にも泣きだしそうな顔を向けてくる。
同室のエリンだ。
彼女は、魔術選抜の合格者であった。
王立アカデミーでは、
入学者の三割は、魔術選抜の合格者である。
要は、魔術が使えることが絶対条件となる。
わたしは、魔力がない。
なりたくとも、絶対に魔術師にはなれない。
わたしの幼い頃の夢は、魔術師だった。
だが、魔力がないとわかり、諦めた。
だから、彼女が羨ましくもあった。
羨ましいというより、嫉妬だ。
心の中が、もやもやする。
「リリィー」
彼女の声ではっとした。
彼女の手を取ったまま、
わたしの意識はどこかへ飛んでいた。
嫉妬心を吹き飛ばすように、
軽く首を左右に振る。
潤んだ翠の瞳が真っ直ぐ、
わたしを見つめてくる。
「入学式の日に転ばないでよ。
行くわよ」
わたしは、彼女の手を引いた。
彼女は、わたしと同じ十四歳だが、
ずっと幼く見える。
彼女は、にこっと屈託なく笑った。
複雑な気持ちはあるが、
彼女を放っておくことはできなかった。
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