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言われるまま、まずは窓際の本棚へ行った。脚立を使い、目当ての本を引き出した。書名より、本そのものの特徴で探したらあっという間に見つかった。確かに小口から少しだけページが浮いている箇所があった。多くの学生が何度も当たったのだと一目でわかった。引用したいところもそのまま合っていた。
もう一冊も、受付のカウンターの返却口に山積みになった中にあった。今、閉架棚に戻すところだったと言われた。
「見つかったでしょ」
顔を上げず、幸宏は言った。
「閉架の分は、誰かが線を引いたところは読まないように。一見の価値もないから。……あ、僕はそう思ってるから。あとで君の意見も聞いてみたいけどな」
はい、と言いながら、彼は一冊の本を差し出しす。幸子が探していた三冊目の本だった。
受け取った時、彼と目が合った。
智を湛えた輝く瞳はいつも何かを求めている。
何とも楽しそうな顔をして本をひもとく姿は、書物と格闘し、語り合っているようで楽しそうだ。
そう、彼は何をやっても楽しんでいる。
彼が学ぶ姿を見るのが好きだ。
触発される、やる気が湧く。力をもらえる、嫉妬もする――
彼女の前に立つ幸宏は、越える壁と言うより目指す山だった。
そこにあるから登るという山。
敵わない相手にケンカを売る自分は、バカみたいだ。
つい、口にしていた。「全部――覚えているのね」
「うん、そうだね、だいたいね」彼はさらりと返した。
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