【4】 好敵手 

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言われるまま、まずは窓際の本棚へ行った。脚立を使い、目当ての本を引き出した。書名より、本そのものの特徴で探したらあっという間に見つかった。確かに小口から少しだけページが浮いている箇所があった。多くの学生が何度も当たったのだと一目でわかった。引用したいところもそのまま合っていた。 もう一冊も、受付のカウンターの返却口に山積みになった中にあった。今、閉架棚に戻すところだったと言われた。 「見つかったでしょ」 顔を上げず、幸宏は言った。 「閉架の分は、誰かが線を引いたところは読まないように。一見の価値もないから。……あ、僕はそう思ってるから。あとで君の意見も聞いてみたいけどな」 はい、と言いながら、彼は一冊の本を差し出しす。幸子が探していた三冊目の本だった。 受け取った時、彼と目が合った。 智を湛えた輝く瞳はいつも何かを求めている。 何とも楽しそうな顔をして本をひもとく姿は、書物と格闘し、語り合っているようで楽しそうだ。 そう、彼は何をやっても楽しんでいる。 彼が学ぶ姿を見るのが好きだ。 触発される、やる気が湧く。力をもらえる、嫉妬もする―― 彼女の前に立つ幸宏は、越える壁と言うより目指す山だった。 そこにあるから登るという山。 敵わない相手にケンカを売る自分は、バカみたいだ。 つい、口にしていた。「全部――覚えているのね」 「うん、そうだね、だいたいね」彼はさらりと返した。
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