【4】 好敵手 

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半分冗談で言ったのに。彼は全くそう受け取っていない。 「ここにある本、もしかしたら」 「そこまでは。でも、分野内なら――。専門書は引用が多いんだ。凡例や脚注を参照すると、だいたい資料のパターンは見えてくる、大元を当たって精読すると、次の本が読みやすくなるし、読み飛ばしやすくなる」 時間も節約できるよ、と言って。彼は再び思索に戻った。 ぴっちりと撫でつけた髪は、隙なく櫛目を入れられ、頬杖をついて傾いだ顔を彩る。 時々、頷きながらペンを走らせる様は、いつまでも見ていたくなる。 もし、私が教職を目指さないで。 街角で、あるいはただの一学生として、先輩として会っていたら、彼のこと、どう思っただろう。 慎や幸宏について問う女性達と同じ目で彼を追ったのではないかしら。 男はキライ。 これは変わらない。 軽蔑さえ感じる彼らを、どうしても好きにはなれない。 でも――彼だけは特別。 柊山に、会っていきたまえと示された生徒が、実のところ誰なのか、はっきりと確かめてはいない。 その後、特に何も聞かされていない。自分からも聞いていない。 でも―― 紹介しようと言った、将来有望な学生は幸宏で間違いない。 初めて会った日は、失礼な人だと思った。 けれど、今の私はどうだろう。 福留を軽蔑していながら、幸宏を憎からず思っている。 こんな自分こそ、軽蔑されるべきではないのか? 「……でさ。さっちゃん」 顔を上げず、ペンを執る、この芸当は本当に真似できない。 「君、付き合っている人、いるの」 「――さあ」 つんとそっぽ向いて、つい答える。 「いないんなら、僕と付き合わない?」 もう何度目だろう、最低一日一回は彼から同じセリフを聞かされている。 今日は晴れだね、と天気の話をするような乗りで。 だから、彼女はいつもこう答える。 「付き合いません!」 お天気話をまともに議論する人がいるわけがない。 戯れ言に真実はない、本気で言ってるんじゃないんだから。 少しどころかたくさんの残念を纏いながら、彼からの『求愛』を受け流す。 それでもよかった、彼とじゃれ合うネタが、『お付き合いしましょう』なのだから。 実現しない時めきに、遊んでもいいじゃない? と自分に言い訳していた。
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