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幸宏の次席、つまりNo.2は、彼女を柊山の元に案内した学生だった。柊山の自称助手という役所だ。
彼だけはどうしても名前を覚えられない。福留という名があるのだが、どうしても出てこない。多分――彼が一番、女としての幸子に興味を持っているからで、それは彼女にとって歓迎せざることで、時々寒気を催したからだ。
しかし、No.2といえども、幸宏との差は余りに開きすぎ、本当に教職を目指しているのだろうか、疑わしく思った。
冷静になって観察すると、幸宏には正直歯が立たない。悔しいけれど、それは認めざるを得ない。
けれど、No.2氏には負けたくなかった。勝てないはずがないと思った。が、それは感情が勝っての思い込み。幸宏にも福留にも冷静に対処できないと幸子は観念した。
幸子が大学で席を温めるようになって日が浅いある日、もうひとりが仲間に加わった。
入って来た相手を指差し、「あれ、君!」と幸宏は席を立つ。
誰に対しても初対面の人には同じことをするのかしら、と呆れかけたがさにあらず、相手も「おや」という顔をした。そして同じく指差して言う、「君か」と。
「元気だった?」
「さほどでもないが」
少し引っかかりのある深い声で応える彼は顔色があまり良くない。
「君も、来たんだね」と問う幸宏に、相手はこくりとうなずく。
「あそこではもう学ぶものがない」
幸子はついふたりの方を向いていた。
幸宏は、元々白鳳にいた者ではない。はっきりと聞いたわけではないけれど、帝大出身という噂だ。柊山に誘われて移籍したという噂が本当なら、帝大がたいしたことがないと言っているようなものだ。
誰なの、この人。
幸子は改めて入って来た人物を眺める。
席を立ち、相手の元へ行く幸宏が隣に立つと、改めて幸宏はチビなのだとわかる。
いや、幸宏の背に低さを差し引いてもかなりの長身の男性は、尾上慎と名乗った。
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