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ただでさえ背が高いのに、底がちびていても下駄を合わせているので、さらに身長が上乗せされる。着ているものも他の男子学生同様、あまりかまわない質のようだ。スレ光りがし、裾がすり切れてるズボンを会わせて平気でいるのだから。
幸宏を見慣れてきてしまっているので、なおさら気になるのか。――武君が、洒落者過ぎるんだわ、と幸子は肩をすくめる。
実際、幸宏はいつもプレスがきちんと掛かったスラックスを身につけ、皺ひとつないシャツに蝶ネクタイを合わせ、ぴかぴかに磨ききった靴を履いている。ネクタイもどこで見繕ってきたのかと驚くほど何本も持っていて、どれも外れがない。服に着られず、着こなせる男だ。
そんな幸宏はとにかくしゃべり倒す方だから、受け答えする相手、慎はどちらかといえば言葉数は少ないようだが、暗くもない。
気がついたら、ふたりを比べるように見ていた彼女は随分と注目してしまったらしい。慎が幸宏へ顎をしゃくるように彼女を見やったからだ。
「あの人は」
「そうそう、さっちゃんだよ」
「さっ……ちゃん?」
これほど幸宏らしい物言いはないだろう。が、しかし!
こんな紹介の仕方って、あるの?
つい頬を膨らませそうになるが、大人の対応をしなくてはならない。落ち着いて立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。
「野原、幸子です」
さっちゃん、だなんて呼ばないで! そう目線に力を入れて対峙した。
「成る程、時代は変わったな」
慎は応えて目礼した。
私が女だから?
つい険が瞳に浮かんでしまったのか、幸子に睨まれた相手は小さく「すまない」と言った。
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