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目的の場所はしんとして静かだった。
元々図書館は私語は聞こえてこない場所だが、彼女が足を踏み入れた時、先客はひとりだけだったから余計だ。
黙々と本を読み、さらさらとペンを走らせる学生は、幸宏だった。
まるで研究室の朝の風景さながらに、ノートを取り、ページを繰っていた。
彼の学習態度にはいつも恐れいる。
なるべく、邪魔にならないように。足音まで忍ばせるように机のはじに私物を置いて、明日のゼミに使えそうな本のリストを出した。
目的の本は、ざっと見繕って三冊。
一冊はどこにあるか目星はついている。あとの一冊は捜さないと。もう一冊は――どこを見たらいいのか、全くわからない。
大学の図書館は広い上、彼女はまだここの使い方がよく飲み込めていなかった。
どうしよう。司書に聞いた方が早いかしら、開架か閉架かくらいだけでも。他の人に借りられているかもしれないのだし。
メモを片手に立ち上がった時だった。
「窓際の、右から数えて二つ目」
声がする。
誰と問うまでもない、幸宏だ。
「上から三段目の真ん中あたりにある、左肩が少し禿げた革装の本。その本の中盤あたりに、紙が飛び抜けているページがある。そこを当たって。もう一冊は、閉架だから司書に問い合わせるといい。まだ棚に返してないだろうから、言えばすぐ出してもらえる。もう一冊はもう少し待って。僕が持ってるから」
言いつつ、ノートの上を走るペンの筆致は全く止まない。
「何を捜すか、わかってるというの」
呆けた声で、呆けたことを言ってしまった。
「うん、だって明日の資料でしょ。慎君があらかた持ち去ろうとしたから止めたの。――違っていたら謝るけど」
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