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お客様の波が引いて、少し落ち着いてから。
「由佳ぁ、見ちゃったよー。私、見ちゃったんだよー?」
楽しそうに言う美帆に、心当たりがないアタシは、「何を?」って普通に答えていた。
その頃には、少し落ち着いていて、彼との会話のことも、記憶の片隅に追いやることができていたのに。
恋する女の子のバイタリティーを侮ったらいけない。
「お兄さんと会話してたの見ちゃったよー」
そう言われて、初めて美帆の言いたいことに気付いた。
「あ、レシートのこと?」
「レシートのことだったんだ。名前聞いてくれたのかと思ったのにー」
「うん。何か『あげるよ』って言われて、意味わかんなくて」
そういうアタシに首をかしげる美帆。
やっぱりかわいい。
「でも、おかしいねー。レシートは要らないって手で合図する人だよ、あのお兄さん」
「え、マジ?」
「こんなことで嘘ついたって、私には何のメリットもないよー」
笑いながら、美帆はそう言って、再び首をかしげる。
アタシも意味が分からなくて、それから、二人とも仕事を忘れて、ずっと情報交換をしていた。
その後、深夜のバイトの人に怒られるまでは。
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