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苦情が怖いから。
レシートを渡さなきゃ。渡す努力をしなきゃ。
また苦情を言われるかもしれないから。
そんな思いつめたような気持ちで、アタシはいつも同じ接客を繰り返している。
そんな状況を知らない彼は、
「あげるよ」
その言葉を、満面の笑顔で言ってくる。
「え…」
ごめんなさい、意味が分からないんですけど。
そんな気持ちが、顔にも出ていると思う。
だけど、作り笑顔が浮かべられない。
「だから、あげるよ。俺、要らないから」
そんなアタシとは正反対で、彼は満面の笑顔のままだ。
「いえ、アタシも要らないです」
人のレシートをもらったって、補充するホットドリンクの種類をメモするくらいしか使い道ってないし。
彼の買ったものを知りたいわけでもないし。というか、今自分でレジ通したんだから知ってるし。
もらったって、どうしようもない。
「だよねー」
そう言いながら笑っている彼を見て、からかわれたんだっていうことに気づいた。
その瞬間、カーッと顔が熱くなって、恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。
いつもの笑顔を浮かべようとしたけど、笑顔になっているのか分からない。
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