境界線

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階段を使って2階下の理一の家に向かう。 ガッチガチに施錠している我が家とは違って、理一の家は大概、カギがかけられていない。 なので、いつもドアを開け、「こんにちは」と一声かけてから入っていくのが決まり事というか、慣わし?になっている。 いつもは、あるけど大きな役割を果たしていない玄関扉が、今日は分厚い壁に見える。 ど…どうしよう…… 躊躇いが生まれる。 ドアノブに手を伸ばすこともできず、人の家の玄関先で固まっている私に、ハイハイ、次はそれね!と軽い調子で神が降臨する。 私がドアに手を触れることなく、その扉は目の前で開かれたのだ。 「わっ!! ビックリした!」 開けた本人は、相当、驚いているけど… 「ウタか! 何、ヌボーッと立ってんの!? 幽霊かと思ったわ」 「お姉ちゃ~ん!!」 美人なのに口が悪い、だから気さくだ。 そう評されるこの人は、理一の姉 藤崎 依子(よりこ)だ。 お姉ちゃんは今年の春、百合ヶ丘学園を卒業し、今は大学に通っている。男女の違いはあるにしても、弟 理一とは違って愛想が良くて、誰にでも愛される人だ。 本日は何やら美しく着飾って、ここに立っている。 藤崎家の人々はみんな背が高い。お姉ちゃんも元々、身長があるのに、さらにヒールを履いているもんだから完全に見下ろされている。 「お姉ちゃん、どこか行くの?」 理一が「姉ちゃん」と呼ぶので、私も「お姉ちゃん」と呼んでいる。その意味もわかっていない頃から、ずっと。 穂積家と藤崎家とは家の垣根がない。 親同士がとにかく仲が良い。私と理一が産まれる前からの付き合いだとか… だから一人っ子で、理一と共に面倒を見てもらった依子は姉みたいな、というよりは、姉そのものだ。 「合コンよ。ウタも連れてってあげようか? ウタなら大量の連絡先が貰えるわよ!」 お姉ちゃんが、ウフフッと茶目っ気たっぷりに微笑んでウインクする。 桜木にしても、お姉ちゃんにしても、美人は自分の使い方をよく知っている。 美人だから何をしても可愛い、というだけの話かもしれないけど…
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